野菜の未来が変わる

「できない」を「できる」に!
FFCの技術と情熱が、
農業の「当たり前」を覆す

どんな世界にも「それが当たり前」という常識が存在する。それは農業も然り。今回は、農業者なら誰もが疑わない常識を見事に覆したふたりの就農ルーキーの試みを日本の北と南から紹介する。

FFCノンフィクションvol.6 「野菜の未来が変わる」(佐賀県白石町・宮城県色麻町)

2017年7月発刊『BOSCO 19号』掲載


不可能と言われた農薬完全不使用栽培で、
驚くほど高品質の玉ねぎ栽培を実現。

家庭の常備菜として欠かせない玉ねぎ。北海道に次いで国内第2位の玉ねぎ生産量を誇るのが伊万里焼や有田焼で知られる九州・佐賀県だ。

なかでも県南西部に位置し有明海にも面する杵島郡白石町は、県内生産量の7割を占める“玉ねぎの郷”として知られる。

ところがそんな玉ねぎを栽培する農業者にとって、近年「べと病」が大きな悩みの種となっている。べと病は露菌病とも呼ばれ、ひと晩で作物のすべての葉が落ちることもあるほどの深刻な被害をもたらす伝染性の植物病害だ。

自家菜園レベルの規模ならば、畑の水はけや風通しの改善などである程度の予防はできるが、玉ねぎ栽培を生業にしている農業者にとっては、それだけでは予防策として心許ない。

そのため、手間暇をかけて育てた作物を台無しにしないように、殺菌剤などの農薬を使用したべと病の予防対策が玉ねぎ農家の“常識”となっている。

しかし、その常識に真っ向から戦いを挑んだひとりの女性がいる。佐賀県白石町在住の玉ねぎ農家でフィランソ会員の桐山秀子さんだ。

取れたての玉ねぎを手にする桐山秀子さん。

熱い想いで決意した。行動力が人も動かした

昨年まで主婦だった桐山さんが玉ねぎ栽培に目覚めるキッカケになったのが平成26年、知り合いの紹介で出会ったパイロゲンとFFC技術の驚くべき実証事例の数々だった。この出会いが、地元玉ねぎ農家の現実を知る桐山さんにひとつの決意を抱かせた。

FFC技術を活かして農薬を使わずに安全でおいしい玉ねぎをつくりたい―。

その熱い想いを胸に、平成28年、桐山さんは約5反の田んぼを使い、FFCエースを活用した玉ねぎ栽培を開始した。

「農薬も除草剤も一切使用せず、食べる側の立場になって『安全、安心、高品質でおいしい』と喜んでもらえるものをつくりたかったんです」(桐山さん、以下同)。

農薬を使わない栽培―。最初は誰も信じなかった

とはいえ就農1年目の“新人”にとって、薬を使わない栽培などわからないことばかり。しかも「農薬を使わなければべと病は防げない」という常識に、ただひとり真っ向から挑もうというのだ。

そんな桐山さんにもうひとつの出会いが訪れる。愛知県でFFCを活用して農薬を一切使用しないユリ栽培を実現している水野茂さんだ。“農薬完全不使用栽培の土づくりのプロ”の存在を知った桐山さんの行動は早かった。九州に農業指導に来た水野さんと出会い、その後、愛知県まで3度も会いに行き、指導と助言を依頼したのだ。

この人しかいない―。そう信じた桐山さんに迷いはなかった。

「とにかく熱意と行動力だけは自信があったものですから(笑)。水野さんには毎日のように電話しましたね。それも毎回2時間は当たり前。最初は『なんて人だ』と怪訝に思われたでしょうね(笑)」

その猪突猛進な熱意に打たれて水野さんもその依頼を快諾する。

桐山さんの田んぼを見学に訪れた人たちに栽培指導をする“土づくりのプロ”の水野さん。

べと病の原因は土中のカビ。そのため『FFCエース』で土質を改善することで、農薬に頼らない栽培が可能になる―。そうした助言のもと、桐山さんの農薬完全不使用栽培はスタートした。

「田んぼに『FFCエース』を混ぜることで土が本来の健康を取り戻し、病害に強い作物をつくる土台ができるんです。実際に周囲の田んぼにべと病が広がるなかでも、うちの玉ねぎは病気にならず、立派なものが収穫できました」

田んぼをFFCエース未使用区と使用区(反当り10袋、20袋、40袋)に分けて生育比較を行うなど実証事例の収集も欠かさない。

「玉ねぎの苗床にもエースを使用。薬を使わず、苗床にエースと堆肥を入れて水浸けし、ビニールをかけて太陽熱で消毒を行っています」

桐山さんが収集しているFFCエースの使用量による生育比較資料の一部。こうしたデータの積み重ねや検証が挑戦の重要な裏付けになっていく。

玉ねぎ栽培は苗8割。FFCを活用して育てた苗は根が白く、生き生きとしている。

桐山さん宅で収穫したばかりの玉ねぎを見せてもらった。その大きさは直径10cmはあろうか、手にずっしりと感じる重さはなんと650g近い。スーパーで目にする玉ねぎがまるでおもちゃのようだ。

身はしまって密度も濃く、生で食べると甘くみずみずしい。

「この玉ねぎ、根から葉先まで全部食べられて皮もお茶にできるんです。イメージが変わったでしょ」と桐山さん。伝統ある東京ステーションホテルの石原総料理長にもその品質が認められ、料理に使用されるようになったという。

桐山さんの玉ねぎ、名付けて『玉ねぎ秀ちゃん』。赤玉ねぎの重さ約980g!(一般的な玉ねぎは約200g)。もちろん味も抜群だ。

しかし栽培を始めた当初は周囲の目も冷ややかだった。

「当初、周囲の農家の方々に『薬品を使わずに栽培する』という話をしたところ、『そんなこと、できるわけないよ』と言われました。でも実際にできた玉ねぎを見て、びっくりしてましたよ(笑)」

現在、桐山さんは自身の育てた玉ねぎを、『佐賀県特別栽培農産物』のA認証(化学合成農薬を一切使用せずに栽培された農産物)に申請している。

「農家だった父がよく言ってました。『これからの時代は作物をブランド化し、人ができないことをしろ』と。『一度しかない人生だからこそ、一生懸命、目標に向かって自分の人生を自分で決め、歩いて行こう』という言葉を胸に、始めたこの玉ねぎこそ、私の誇りなんです」

来年には田んぼを1町2反に拡大予定だという桐山さん。誇りをかけた挑戦は始まったばかりだ。

 

FFCウォーターの葉面散布をしているのは同じ農業者として農薬完全不使用栽培という取り組みに共感し、時折、作業を手伝いながら栽培法を学んでいるという橋間健次さん。

いい土がいい作物を育てる。FFCエースは農業の在り方を変える可能性を秘めている。

桐山さんの玉ねぎのイメージキャラクター『玉ねぎ秀ちゃん』。

 


土と水が変われば、育つ野菜も変わる。
熱意とFFCで農業の未来が変わる。

FFCは土への貯金。それが野菜を強く、おいしくする

夏のほうれんそう栽培は難しい。これも農業者の間では定説になっている常識だ。耐寒性が強く冷涼な気候を好むほうれんそうは高温になる夏に播種しても発芽しにくく、発芽しても立ち枯れが出るなどの問題があるからだ。

そんななか宮城県加美郡色麻町に、就農1年目にして真夏でも高品質で安定した収穫の確保を実現した若き農業者がいる。フィランソ会員の早坂隆顕さんだ。

早坂さんが3棟のビニールハウスでほうれんそう栽培を始めたのは平成28年7月、まさに夏まっさかりの時期だ。1棟あたり年5回の作付を計画している早坂さんが何よりもこだわったのは、栽培時に灌水する「水」だった。

色麻町周辺は良質の地下水が出る地域。早坂さんも容量1トンのタンク2つに常に地下水を貯水している。さらに各タンクにFFCセラミックスを設置、通常は貯水後ひと晩くらい寝かせてから栽培に使用している。

「ウチは播種時に6トン、発芽後に約4トンと、ハウス1棟で1作につき約10トンの水を使っています。ほうれんそうのような葉物野菜はその重量のほとんどが水分なので、それを食べるのは栽培で使った水をそのまま飲むようなもの。だから使う水の質はとても重要なんです」(早坂さん、以下同)

1トンの地下水を貯蔵できる貯水タンクにはFFCセラミックスを投入。ほうれんそう栽培のすべての作業過程での灌水にFFC処理を施した水を使用している。2つの貯水タンクに加え、15トンの水を溜められる貯水池も早坂さんの手作業で造成中。

早坂さんのさらなるこだわりは、農業のもうひとつの生命線とも言える「土壌の質」だ。

色麻町周辺の土はそもそもが粘土質で、肥料を撒くだけではボロボロと固くなってしまう。そこで早坂さんのハウスでは、播種前の畑に肥料などと一緒に『FFCエース』を散布している。

「そうすると粘土質の土でも固くならず、ふかふかと柔らかいんです。現在はエースを赤塚さんが定めている推奨量(120kg/10a)どおりに散布していますが、就農1作目は標準の2倍近い量を散布しました。以降の栽培を考えて“土の基礎体力”をつけようと最初は多めに使用したんです」

早坂さんの積極的なFFCの活用には、母・恵子さんの「FFCエースは土への貯金」という“金言”が大きく影響しているのだとか。

そんな取り組みのもと、真夏に栽培を始めたほうれんそうは発芽も順調で立ち枯れもなく安定した収穫量を確保。バイヤーの目にとまって仙台市内の百貨店で販売されたこともあった。

早坂隆顕さん(右)とその取り組みを見守る心強い理解者でもある母・恵子さん。

FFCがもたらす地域活性化という期待

農業者が抱える問題のひとつに、長期間、同じ畑で同じ作物をつくり続けると畑の土の栄養分がアンバランスになる「連作障害」がある。ほうれんそう栽培も然りなのだが、FFCエースを散布した早坂さんの畑では年5作のサイクルの連作を行っているが、これまで連作障害とは無縁だという。

「FFCエースによって土質が変わってきたという感覚はあります。まだ就農1年目ですから、本当の意味でFFCの効果を実感するのはこれからですが、母が言うように『FFCは土への貯金』。この技術が野菜づくりを変えていくのではという期待は感じています」

FFCエースを散布した後の土はふんわりと柔らかな手ざわり。この土がほうれんそうをよりおいしく、より強く育ててくれる。

その期待を基に早坂さんは現在、経営基盤としてのほうれんそう栽培に加えて、新しい野菜の栽培も考えており、すでにトマトづくりの準備も始めているという。

「FFCで土と水にこだわるなら、同時にそこで育てる野菜とのマッチングも考えたいんです。この土にはほうれんそう以外にどんな野菜が合うのか、何がつくれるのか。もしかしたら、これまで気候風土が合わなくてつくれなかった野菜も、この土なら育つかもしれない。そこから新しい特産物が生まれれば、それが地域の農業経営の向上にもつながっていくと思うんです」

FFCの活用は作物栽培だけでなく地域活性や地方創生のアプローチとしての可能性も秘めているのだ。若き挑戦者の高い意識とFFCのコラボレーションが、この国の農業の未来を切り開いていく。

ビニールハウスを美しい緑に染める見事なほうれんそう。周りの農家の方から発芽率がよいと驚かれている。現在、約70坪のハウス3棟での栽培だが、新たに9棟の設置を準備中。


撮影/野呂英成、生嶋利充 取材・文/柳沢敬法