一生動ける・歩ける体を作る 自宅筋トレ講座 Part 3

指導=
森谷敏夫(京都大学名誉教授/京都産業大学教授/中京大学客員教授)
吉田直人(NSCAジャパンHPCヘッドコーチ・ストレングス&コンディショニングコーチ)

血圧に不安がある場合はここに気をつけよう

中高年からの筋トレというと、高血圧が心配になる方も多いのではないでしょうか。いきなり筋トレなどして、血圧が上がらないだろうか? 脳の血管が切れたりしないだろうか? と感じるかもしれません。

結論から言うと、筋トレを行うとたしかに一時的に血圧は上がります。すでに血圧の数値がレッドゾーンに達している場合には、筋トレは避けたほうがいいと言えます。
ただ「少し高め」というレベルであれば、心配しすぎる必要はありません。

たとえば重いダンベル(筋力によりますが、10kg以上)を2秒持ち上げて、2秒下ろす、また2秒上げて、2秒下ろす、といった動作であれば医学的には問題ないと考えられています。上げたときには血圧があがりますが、それが2秒しか続けず、同じくらいの時間の休みが入るのであれば、血圧がそのまま上がってしまうということはありません。

避けたほうがいいのは「歯を食いしばり、息を止めて、非常に大きな負荷のものを長時間上げる」という動作です。息を止めることで酸素が欠乏し、そのために血圧は急上昇してしまいます。また、水分不足の状態のまま筋トレを行うことも避けましょう。
水分不足は血液が流れにくい状態を生み、それが血圧の上昇を招くリスクにもなるので、筋トレをがんばるときは事前に水を飲んでおきましょう。

血圧高めの方が筋トレを行う場合に注意することは

1.歯を食いしばらないとできないほどキツいことをしないこと
(例:非常に重いダンベルを持ち上げるなど)
2.力を入れるときに呼吸を止めないこと
3.長い間力を入れすぎないこと、いきみすぎないこと
4.筋トレの前に水を飲んでおくこと

ここに留意していればだいじょうぶ!
それでも心配な人は、「重いダンベル」を持ち上げる筋トレは避けて、ここで紹介するような、自分の体重を利用した「自重トレーニング」のみを行うようにしましょう。
もちろん自重トレーニングといっても、自分の体というのはそんなに軽いものではありません。 腕立て伏せやスクワットは「自重筋トレ」のひとつですが、けっしてラクな筋トレではありません。

その場合には、

・腕立て伏せがむずかしければ、膝をついた姿勢で腕立てをする
・深いスクワットがむずかしければ、膝を軽く曲げるだけのものにする

などの負荷が少ない方法で始めていても、じゅうぶんな効果があります。
続けていくうちに、どんどんラクにできるようになっていきます。

さあ、いよいよ筋トレを始めましょう!

自宅筋トレA 腕立て伏せ(上半身全体の筋肉)

2~10回やって10~30秒休み、2~3セット行う(回数、セット数は筋力に応じて増やす)

腕立て伏せは全体重の約7割が両腕にかかる筋トレです。
正しい方法で行えば、これだけで上半身の筋肉全体(上腕、肩、胸など)がしっかり鍛えられる強力なトレーニングです。

とはいえ、腕立て伏せなんかできない! という方もいるでしょう。
特に女性の場合は「1回もできない」という方のほうが多いかもしれません。
その場合も心配無用です。

1.肘を深く曲げず、体を少し下ろすだけでやってみましょう。
2.膝をついた姿勢でやってみましょう。
3.膝をついても肘を曲げられない場合は、壁に向かって立ち、両手を壁について肘を曲げる方法でやってみましょう。
4.肩の高さよりやや低いくらいの鉄棒、しっかりとした手すりなどがあれば、両手でつかんでやってみましょう。

※鉄棒が低いほど、鉄棒と足が離れるほど、筋力が必要になります。

どの場合も、手の位置は肩幅よりもやや広めにとり、腰から背中をまっすぐに保って行います。
壁や鉄棒を使う場合は、手が滑るなどして転倒の危険もありますので、周囲の安全を確保し、慎重に行ってください。筋力に特に自信がない方は、1または2の方法がもっとも安全です。

では、通常の腕立て伏せです。

①両手を体よりもやや広めにとって、体をしっかりと支える。むずかしい場合は膝をついた状態でかまわない。

②背筋を伸ばし体を真っ直ぐにキープしたまま、体を真下に下げ、まっすぐ上げる。

Point!
・両手は肩幅よりもやや広め
・肘を曲げて体を下ろしたときに、指先が肩より前に出ないように
・体を上下させるとき、腰から背中はまっすぐに保つ
・体を下ろすとき、肘を左右に開かない

最初はなかなかむずかしいと思いますのであまり気にしすぎなくてもだいじょうぶ。
とはいえ、間違った姿勢で10回やるよりも、正しい姿勢で2回やったほうが効果があることは忘れないでくださいね。

☓よくない姿勢
①腰が落ちている。


②腰が突き出している。

自宅筋トレB スクワット(下半身全体の筋肉)

5~12回、20~30秒休んで2~3セット(回数、セット数は筋力に応じて増やす)

スクワットは下半身の筋肉を鍛えるのに非常に効果的な筋トレです。
反動をつけずゆっくりと行ってください。腰を落としたとき、1秒止めるようにすると反動がつかず、効率がよくなります。
両手は頭の後ろで組んでも、胸の前でクロスさせてもOK。頭の後ろで組むと猫背になりにくくなります。

膝を深く曲げることができない人は、まず浅く曲げるところから始めてください。
すぐに慣れて少しずつ深く曲げられるようになります。
背中を丸めず、しっかり胸を張ってまっすぐ前を向き、おしりを後ろに突き出すようにやってみてください。
真後ろの椅子に腰を下ろすときのイメージで行えばいいと思います。
回数、セット数は、慣れてきたら徐々に増やしていくと、筋肉は効率よく増えていきます。

これでは物足りない、あるいは回数を少なくして同じ効果が欲しい、という場合は、1~2kg程度のダンベルや、水を入れたペットボトルなどを両手で体の前に持っておこないます。
ただ負荷を加えたときも、正しい姿勢はくずさないように注意してくださいね。ジムで行う場合も同様です。

①両足を肩幅に開いて立つ。

②背筋をまっすぐに保ったまま、腰を落としていく。
※胸を張り腰を突き出すようなイメージで

☓よくない姿勢
①膝がつま先より前に出る。


②猫背になっている。

【アドバンス編】
もっと負荷をかけたい場合はダンベルや水を入れたペットボトルを持とう!


ジムのマシン、ダンベルを使って行う場合も基本はまったく同じ!


※ジムの機器を使う場合は、必ず最初にジムのインストラクターの指導を受けてから行ってください。

<一生動ける・歩ける体を作る 自宅筋トレ講座 Part 4.>

<Part 2.>「筋トレ前」と「筋トレ後」のストレッチを覚えよう

<Part 1.>筋トレを始める前に・・・


森谷 敏夫(もりたに・としお)
1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、京都大学教養部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て2016年から京都大学名誉教授、京都産業大学・中京大学客員教授。専門は応用生理学とスポーツ医学。著書に『京大の筋肉』(ディジタルアーカイブス)、『やせられないのは自律神経が原因だった』(青春出版社)、『定年筋トレ』(ワニブックスPLUS新書)ほか。

吉田 直人(よしだ・なおと)
1976年、千葉県出身。千葉県私立成田高校、中央大学経済学部卒業。一度は金融業に就職するも、トレーナーの道を選ぶ。ウイダートレーニングラボでヘッドS&Cコーチ、ラグビートップリーグのホンダヒートでヘッドS&Cコーチとして5年間従事し、2017年4月よりNSCAジャパンヒューマンパフォーマンスセンターヘッドS&Cコーチを務める。資格:CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)、NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)著書に『定年筋トレ』(ワニブックスPLUS新書)ほか