
手にとれば
花はいよいよ大きかり
花はいよいよ真白かりける ― 植松寿樹(うえまつひさき)
【現代訳】
手に取ってみると、泰山木の花はいよいよ大きく感じられる。そして、いよいよその純白のまぶしい白さを感じるなあ。
心に咲く花 2025年91回 泰山木(タイサンボク)
甘く芳醇な香りをもち、純白色の大輪を咲かせる泰山木。モクレンや辛夷(コブシ)など、モクレン属の最後を飾る開花時期の樹木として、初夏から、品種によっては10月頃まで楽しむことができます。
1890年(明治23年)に生まれた作者、植松寿樹が、「手にとれば花はいよいよ大きかり花はいよいよ真白かりける」と詠んだ驚きが令和の現代でもとてもよくわかります。「花はいよいよ」とたたみかける詠み方に作者の驚きや感動が感じられます。
花の白と光沢ある葉の深みのある緑色との対比は美しいものですが、あえて花一輪を手に取ってしみじみ見つめた際、作者はその圧巻の存在感に見惚れたのではないでしょうか。
北米原産の泰山木は、日本には明治初期に入ってきました。ミシシッピ州やルイジアナ州の州木にも指定されている泰山木。初めて観た明治の人々は、その大柄な花の味わい深さに感じ入ったのだと思います。
以後、日本じゅうで親しまれ、詩歌にも多く詠まれるようになっていきました。「ゆふぐれの泰山木の白花はわれのなげきをおほふがごとし」と詠んだのは斎藤茂吉(さいとうもきち)です。俳人の高浜虚子(たかはまきょし)は「今日の興 泰山木の花にあり」と詠み、自由律俳句の種田山頭火(たねださんとうか)も「がつちりと花を葉を持つて泰山木」と称えました。
秋には赤い実をつけ、種子はいろいろな鳥に好まれているそうです。庭木として親しまれる他、公園樹としても人気がある泰山木は耐寒性にも耐暑性にも優れています。
樹木に咲く花を見上げてもすばらしいですが、時には作者のように、足元に落ちた一輪を手に取って、その風貌を味わうのも一興なのかもしれません。一輪の花にも宿る誇りと麗しさ。尊ささえ感じさせる純白色の花を見ていると、明日への勇気と希望が湧いてくるのではないでしょうか。
若木のうちから開花し、大きな花を咲かせる泰山木。花言葉が「前途洋々」「威厳」だと聞いて、なるほどなあと納得いたしました。
田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
★こちらの記事もご覧ください★
【BOSCOトーク】対談 赤塚耕一×田中章義さん