心に咲く花 12回 水仙

白鳥が 生みたるものの ここちして
朝夕めづる 水仙の花― 与謝野晶子

【現代訳】
寒のさなかに咲く水仙はまるで白鳥が生んだような思いになる花です。
朝にも夕暮れにも愛でたくなるすばらしい水仙の花。

心に咲く花 2019年12回 水仙


旧約聖書やギリシャ神話、千一夜物語などにも登場する「水仙」は古来、世界じゅうの人々に愛されてきました。花が少なくなる冬の時期に、雪の中でも花を咲かせるので、この国に生きた人々は古来、「雪中花」とも呼んで、讃えてきました。

厳しい寒さの中でも凛とした美しさで大地を彩る水仙を愛した文人は少なくありません。
ウィリアム・ワーズワースは、「銀河に輝く星のようだ」と並び咲いた水仙の花を讃えています。

日本では、あの一休宗純も「美人の陰に水仙の香有り」という表現をしたことがありました。
「水仙や 寒き都の ここかしこ」と詠んだ与謝蕪村、「梅よりも なほさきだちて 山人と 名におふ花や 花のこのかみ」と詠んだのは本居宣長です。
江戸時代末期の歌人 千種有功(ちぐさ ありこと)も、「ふりかくす 雪うちはらひ 仙人(やまびと)の 名もかぐはしき 花を見るかな」と詠み、水仙は「仙人」の名でも呼ばれたことがうかがえます。
近代歌人の前田夕暮は、「わがふるさと 相模に君と かへる日の 春近うして 水仙の咲く」という歌を歌集『収穫』に入れています。

時代も国境も超えて愛される水仙。その中でも、掲出歌の与謝野晶子の「白鳥が生みたるもののここち」という表現はとても印象的でした。歌集『草の夢』に収められています。
純白色に輝くあのすばらしい花は、きっと白鳥が生んだものなのだという女流歌人の発想。
趣も気品も豊かな芳香もたたえた水仙は、さまざまな表現者を魅了してやまなかったことと存じます。

世界では今、水仙を「希望の象徴」として愛でる地域もあります。
寒さの厳しい時期にもこんなにすばらしい贈りものを用意してくれた大地。
この大地こそが、実は何よりものサンタクロースなのだと思う日々です。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。