暦で感じる、美しき日本の四季「二十四節気七十二候」を知る Part 3.

二十四節気七十二候 夏

二十四節気七十二候 “夏” 第十九候から第三十六候を解説する。

立夏【りっか】

夏の始まりの時期。五月晴れの日が続く絶好の行楽シーズンで、風が心地よく過ごしやすい。

● 第十九候  蛙始鳴【かえるはじめてなく】
[五月五日~九日頃]
冬眠から目覚めたカエルが田んぼや池で鳴き始める頃のこと。この頃、田んぼの畦道などでは小さなカエルが飛び跳ねる姿が見られるようになる。印象的な鳴き声はオスがメスを求める求愛行動だという。「カエルが鳴くから帰る」というが、必ず自分が生まれた池に戻ってくる習性が名の由来になったという説がある。

●第二十候  蚯蚓出【みみずいずる】
[五月十日~十四日頃]
土が温かくなり、冬眠していたミミズが土の中から出てくる頃のこと。ミミズは土中の有機物や微生物を食べ、排泄されるフンは豊かな腐植土の元になるため益虫とされている。

●第二十一候  竹笋生【たけのこしょうず】
[五月十五日~二十日頃]
タケノコが生えてくる頃のこと。実際のタケノコの旬はもう少し早く、孟宗竹は三月から四月には出回る。この時期に旬なのは根曲がり竹という種類だ。ちなみにアーティチョークはこの時期が食べ頃。日本ではまだなじみが薄いが、イタリア料理やフランス料理によく使われる野菜で、柔らかいガクと花芯部分を食べる。
 

小満【しょうまん】

万物が次第に天と地に満ちてくるという意味。気温も上がり、秋にまいた麦の穂も色づく頃。

● 第二十二候  蚕起食桑【かいこおきてくわをはむ】
[五月二十一日~二十五日頃]
蚕が、桑の葉をたくさん食べて成長し、絹糸になる繭を出し始める頃のこと。明治から昭和初期、そして昭和三十年代の日本で養蚕業が盛んで、蚕は人々の暮らしを支える大切な生き物だったため「おかいこさま」と敬称をつけて呼ぶ地方もあった。また蚕は、ミツバチと並んで家畜用として飼育される昆虫の代表でもある。

●第二十三候  紅花栄【べにばなさかう】
[五月二十六日~三十日頃]
紅色の染料や食用油の原料として栽培されているベニバナが鮮やかな花を咲かせる頃のこと。味覚の旬ならクルマエビ。刺身や寿司、天ぷらなど初夏の高級食材として人気だ。

●第二十四候  麦秋至【むぎのときいたる】
[五月三十一日~六月四日頃]
麦が実って黄金色の豊かな穂をつける頃のこと。この場合の「秋」は穀物の収穫期、実りの季節のこと。そのため初夏ではあるが「麦にとっての秋」と呼びならわされる。
 

芒種【ぼうしゅ】

稲や麦の種をまく頃。「芒」は穂先にある針状の突起のこと。次第に雨の日が増え、梅雨も近い。

● 第二十五候  蟷螂生【かまきりしょうず】
[六月五日~九日頃]
カマキリが姿を見せ始める頃のこと。メスが交尾後にオスを捕食することでも知られる。獲物を待つ姿勢が祈りを捧げているように見えることから「拝み虫」とも呼ばれている。

● 第二十六候  腐草為蛍【くされたるくさほたるとなる】
[六月十日~十五日頃]
梅雨を控えて湿気が多くなり、野原では蒸れて腐りかけた草の下で、ほんのり光を発しながらホタルが飛び交い始める頃のこと。その昔、腐った草や竹の根が蒸れてホタルに生まれ変わると信じられていた名残からこの名がついたとも。六月から夏にかけてはアオリイカが旬。むちっとした食感は寿司ネタでも人気。

● 第二十七候  梅子黄【うめのみきばむ】
[六月十六日~二十日頃]
ウメの実が熟してくる頃のこと。梅雨が近くなると、ウメは果実を実らせて旬を迎える。まだ青い実は梅酒に、熟した実は梅干に、完熟の実はジャムにと、味わい方もさまざまだ。
 

夏至【げし】

一年で昼が最も長く、夜が最も短い日。実際には梅雨の時季だが暦の上では夏の真っ只中にあたる。

● 第二十八候  乃東枯【なつかれくさかるる】
[六月二十一日~二十五日頃]
乃東とは「夏枯草」とも呼ばれる「ウツボグサ」の別名。冬至の頃に芽を出したウツボグサが夏至を迎えて枯れていく頃のこと。淡水魚の代表で六月に釣りが解禁になるアユはこの時期が旬。塩焼きが定番だが唐揚げや洗い、地域によっては煮物やアユ寿司なども。またアユの腸の塩辛「ウルメ」は珍味として名高い。

● 第二十九候  菖蒲華【あやめはなさく】
[六月二十六日~三十日頃]
アヤメの花が咲く頃のこと。「菖蒲」は「しょうぶ」とも読むが、ふたつは別物。アヤメはカキツバタにも似ており、見分けにくいことの例えで「いずれ菖蒲か杜若」といわれる。

●第三十候  半夏生【はんげしょうず】
[七月一日~六日頃]
「半夏」とは山道や畑などに生息している植物・カラスビシャクというサトイモ科の多年草で、その半夏が生え始める頃のこと。夏至から数えて十一日目にあたる。農作業の節目として、田植えは半夏生までに終わらせるとされていた。またこの時期に降る雨を「半夏雨」と呼び、豊作凶作を占ったともいわれている。
 

小暑【しょうしょ】

梅雨が明けて暑さが本格的になる頃。雨空から快晴続きの夏へと季節は移る。七夕もこの頃。

● 第三十一候  温風至【あつかぜいたる】
[七月七日~十一日頃]
日差しが日ごとに強まり、熱気を帯びた夏の風が吹いてくる頃のこと。七月七日といえば「七夕」。織姫の星と牽牛星(彦星)が、一年に一度だけ天の川をはさんで向き合うという中国の伝説はあまりに有名だ。この時期はトウモロコシが旬。茹でトウモロコシに焼きトウモロコシ。甘く香ばしい風味はまさに夏の味覚だ。

●第三十二候  蓮始開【はすはじめてひらく】
[七月十二日~十六日頃]
深夜から夜明けにかけてハスの花が咲き始める頃のこと。泥の中で育ち、美しく咲くハスは「泥より出でて泥に染まらず」と例えられ、その清らかさは古くから愛されてきた。

●第三十三候  鷹乃学習【たかすなわちわざをなす】
[七月十七日~二十一日頃]
初夏に孵化したタカのひなが、飛び方や獲物の捕り方を覚えて巣立ちに備える頃のこと。日本でタカといえばオオタカのことを指すのが一般的。昔から日本人と関係が深い身近な鳥で、古い伝統猟法として知られる鷹狩りは『日本書紀』にも登場し、その歴史は四世紀頃にまでさかのぼるともいわれている(諸説あり)。
 

大暑【たいしょ】

一年で暑さがいちばん厳しく感じられる頃。ウナギを食べる「土用の丑」もこの時期。

● 第三十四候  桐始結花【きりはじめてはなをむすぶ】
[七月二十二日~二十七日頃]
キリの花が咲く頃のこと。この時期は立秋前の十八日間で夏の土用入りとなる。夏の土用から最初の丑の日が「土用の丑」で、体力をつけるためにウナギを食べる習慣はおなじみだ。

●第三十五候  土潤溽暑【つちうるおうてむしあつし】
[七月二十八日~八月一日頃]
土が湿り気を帯びて蒸し暑くなる頃のこと。夏の強い日光を浴びた土が湿気と熱を発する様子を「土熱れ」という。この時期に学校は夏休みに入り、子どもたちの夏が本番になる。

●第三十六候  大雨時行【たいうときどきにふる】
[八月二日~六日頃]
夕立があったり台風が近づいたりと、夏の大雨が降る頃のこと。夕立を知らせる入道雲もよく見られる時期だ。小暑から大暑までを一年でもっとも暑いという意味で「暑中」と呼ぶ。この時期に健康を気遣って送る便りが「暑中見舞い」だ。暑中見舞いは大暑までで、これ以降に出す場合は「残暑見舞い」になる。
 
 
※本特集の七十二候は、原則として『略本暦』の漢字表記を基にしながら、旧字体は新字体に置き替え、読み方は現代仮名遣いで表記しています。


2014年1月発刊『BOSCO 5号』掲載 特集
取材・文/柳沢敬法、イラスト/南景太

<Part 1> まずは暦について知ることから

<Part 2>「二十四節気・七十二候」を知る “春”

<Part 4>「二十四節気・七十二候」を知る “秋”

<Part 5>「二十四節気・七十二候」を知る “冬”