暦で感じる、美しき日本の四季「二十四節気・七十二候」を知る Part 1.

日本には美しい四季がある。移ろう季節をこまやかに記した情緒あふれる「暦」がある。
二十四節気・七十二候-。年の初めにあらためて日本の暦を知り、心と体で季節を感じる暮らしを始めたい。

 
※本特集の七十二候は、原則として『略本暦』の漢字表記を基にしながら、旧字体は新字体に置き替え、読み方は現代仮名遣いで表記しています。
 
 

二十四節気って? 七十二候って?
まずは「暦」について知ることから始めよう

太陰暦に太陽暦、旧暦に新暦と、暦もいろいろ。ここでは二十四節気や七十二候もあわせて、まずは暦の“基礎の基礎”を解説する。

◎太陰暦とは?

月の満ち欠け(月が地球を1周する周期)に基づく暦法。月の公転周期は約29.5日で、それを12倍すると1年は約354日になる。現在のヒジュラ暦(イスラム歴)が太陰暦にあたる。

◎太陽暦とは?

地球が太陽を1周する公転周期に基づく暦法。その公転周期である約365日が1年となる。古代暦の中ではエジプト暦やマヤ暦が太陽暦にあたる。

◎旧暦とは?

明治5年末まで用いられた日本の旧暦は「太陰太陽暦」。太陰暦と太陽暦では1年に約11日の誤差がある。季節は太陽と地球の位置で決まるため、太陰暦では季節にズレが生じて農耕に影響が出る。そこで太陰暦と太陽暦の折衷として「太陰太陽暦」が考えられた。

◎新暦とは?

日本で現在使われている新暦は太陽暦のひとつ、「グレゴリオ暦」。
グレゴリオはこの暦を制定したローマ教皇の名前だ。4年毎に閏年を入れることで、公転周期の誤差を調整する暦法。世界の大多数の国で用いられている。

◎二十四節気とは?

二十四節気とは、太陽が運行する黄道(地球を中心にした見かけの太陽の通り道)の360度(1年)を24等分して約15日ごとに分けて、季節感を盛り込んだ名前を配したもの(下図参照)で、太陰太陽暦における太陽暦の部分にあたる。元々は約2600年前に中国で考案された暦法で、半月ごとの季節感を知る基準になるため、農作業の目安として重用された。後に日本に伝来したが、中国と日本では気候が違うため季節感に若干のズレがある。

◎七十二候とは?

二十四節気をさらに、それぞれ約5日ずつに3等分した期間のこと。1年間を72等分することになり、それぞれの時候にふさわしい名前を配して季節の推移を表した暦である。七十二候も古代中国の発祥。ただし中国の季節をそのまま使っている二十四節気に対し、七十二候は日本の気候風土に合わせた名称改訂が何度も行われ、明治7年の『略本暦』に掲載されたものが現在の七十二候として用いられている。
 
 

ノンフィクションライター・大平一枝さんに聞く
季節の移ろいを知る暮らしのススメ

街のショーウインドーは、半袖シャツの夏が終わるとすぐダウンコートに様変わり。家電量販店では昨日までクーラーが目玉でも今日は暖房器具がイチ押しに──。
何だか日本の四季が極端になってきた気がしないだろうか。
「最近よく『季節の移ろいが忙しいな』と思うことがあります」という大平さん。

「いまの日本はファッションでもビジネスでも“先取り先取り”。ともすれば季節感が、暑い夏と寒い冬という両極だけの繰り返しになりがちです。でも季節というのはハッキリと線を引いて分けられるデジタルなものではありません。日本の四季の素晴らしさは『少しずつ暑さが増していく』とか『日に日に空気が冷たくなる』という季節の移ろい、季節の“間”を感じる美意識にあると思うんです」

夏でも冬でもない“移ろう間”こそ日本の季節感の真骨頂なのだ。
「そんな季節の間に美しい言葉を当てたのが二十四節気・七十二候。陽気の変化、生き物や草花の様子などが生み出す季節感が、二十四節気なら約十五日ごと、七十二候なら約五日ごとに細かく表現されています。自然界のちょっとした変化に気を配ることで、暮らしの中での季節の移ろいをより敏感に、身近に感じることができるのではないでしょうか」

夏の後はすぐに冬、ではなく、五日ごとに立ち止まって季節を感じる。それだけで気持ちがゆったりして、暮らしにゆとりと豊かさが生まれると大平さんは言う。

「二十四節気・七十二候はかつて、農作業の目安として重宝されていました。今この瞬間の陽気に気を配り、次の季節の準備をしていたのです。こうした暮らしにあるのは何カ月も先のシーズン先取りではなく“ほんのひと足先の季節を愛でる想像力”なんですね」

日本の季節は春夏秋冬の四つだけではない。こうした暦に目を向ければ、一年に何度も巡り来る季節感を味わうことができるのだ。
急ぎ過ぎず日々足を止めて今の季節を知り、少しだけ先の季節を想像して心と暮らしの準備をする。
「暦を知るだけで毎日に小さな喜びが増え、心が豊かになる。これはお得なことだと思いませんか」


大平 一枝(おおだいら・かずえ)

ノンフィクションライター。長野県生まれ。女性誌、インテリア誌、新聞、書籍を中心に、ライフスタイルや人物ルポなどの執筆を数多く手がける。『もう、ビニール傘は買わない』(平凡社)、『昭和ことば辞典 おい、羊羹とお茶もっといで!』(ポプラ社)など著書も多数。

公式サイト「暮らしの柄」

大平さんの著書『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ十二か月』(ワニ・プラス)には季節感を楽しむ知恵が満載


2014年1月発刊『BOSCO 5号』掲載 特集
取材・文/柳沢敬法、撮影/与儀達久、イラスト/上田みゆき、平林弘子

<Part 2>「二十四節気・七十二候」を知る “春”

<Part 3>「二十四節気・七十二候」を知る “夏”

<Part 4>「二十四節気・七十二候」を知る “秋”

<Part 5>「二十四節気・七十二候」を知る “冬”