二十四節気七十二候 秋
二十四節気七十二候 “秋” 第三十七候から第五十四候を解説する。
立秋【りっしゅう】
残暑は厳しいけれど、暦の上では秋が始まる。月遅れのお盆を迎える地域では夏祭りも多い。
● 第三十七候 涼風至【すずかぜいたる】
[八月七日~十一日頃]
お盆を控えて暑い風が収まり、涼しい風が吹き始める頃のこと。盆花の代表で「鬼灯」などと書かれるホオズキ。飾りだけでなく霊を迎える目印の赤い提灯の意味もあるとか。
●第三十八候 寒蝉鳴【ひぐらしなく】
[八月十二日~十六日頃]
俳句では秋の季語でもあるヒグラシが、行く夏を惜しむかのごとく鳴き始める頃のこと。「カナカナカナ~」という特徴ある声で鳴くため、ヒグラシは「カナカナ蝉」とも呼ばれる。この時期は真ダコが旬を迎える。日本人になじみの深い食材のひとつで、刺身や茹でダコ、タコ焼き、から揚げ、煮付けなど食べ方も多彩だ。
●第三十九候 蒙霧升降【ふかききりまとう】
[八月十七日~二十二日頃]
早朝の森や水辺に、濃くて深い霧がまとわりつくかのように立ち込める頃のこと。まだ残暑は厳しいが、ときに朝夕の空気がひんやりして、静かに近づく秋の気配が感じられる。
処暑【しょしょ】
「処」は「収まる」の意味。夏の暑さが峠を越えて収まり、朝晩に秋の涼しさが感じられる頃。
● 第四十候 綿柎開【わたのはなしべひらく】
[八月二十三日~二十七日頃]
綿の花の「柎」が開き始める頃のこと。柎とは花のガクのこと。七~八月に黄色い花を咲かせて実をつける綿。その実を包んでいた柎が開くと中からふわふわの綿毛が姿を表し、これを紡いで木綿の糸や布が作られる。綿は肌ざわりがよくて吸水性が高く、染色性にも優れており衣料用繊維の代表として重用されている。
●第四十一候 天地始粛【てんちはじめてさむし】
[八月二十八日~九月一日頃]
夏の陽気が落ち着いて、秋の涼しさを感じる頃のこと。立春から数えて二百十日目の「二百十日」を迎える時期(新暦の九月一~二日頃)。二百十日は稲の開花期でありながら台風の襲来が多くて被害を受けがちなため、農家の厄日のように考えられている。二百十日前後に風の被害を防ぐための風祭りを行う地域もある。
●第四十二候 禾乃登【こくものすなわちみのる】
[九月二日~六日頃]
稲が実って穂が頭をたらす頃のこと。「禾」は稲や麦など穀物の総称。晩夏から初秋の旬の野菜といえばナス。とくに「嫁に食わすな」といわれる秋ナスは身が締まって味もいい。
白露【はくろ】
草花に白い朝露がつく頃。秋になって夜が冷え込み、翌朝、草に結ぶ露が白く見えるという意味。
● 第四十三候 草露白【くさのつゆしろし】
[九月七日~十一日頃]
夏から秋への変わり目で冷え込んだ朝方の空気が、草の葉で露となって白く見える頃のこと。九月九日の重陽の節句はこの時期。菊を愛でて長寿を祈る日として「菊の節句」とも。
● 第四十四候 鶺鴒鳴【せきれいなく】
[九月十二日~十六日頃]
水辺を好む尾の長い小鳥、セキレイが「チチィチチィ」というかわいらしい鳴き声を聞かせ始める頃のこと。 地面を叩くように尾を振って歩くことから「イシタタキ」とも呼ばれる。この時期の味覚の代表といえばサンマ。北海道沖から南下を始める秋がもっとも脂が乗っているとされ、食欲の秋はサンマの塩焼きで始まる。
● 第四十五候 玄鳥去【つばめさる】
[九月十七日~二十一日頃]
春先に日本にやってきたツバメが、冬を越すために暖かい南へ旅立っていく頃のこと。旧暦の八月十五日は満月で「中秋の名月」または「十五夜」と呼ばれ、新暦ではこの時期にあたる。サトイモの収穫時期と重なるため「芋名月」と呼ばれることも。空気が澄み渡って月が美しく見えるこの頃の夜は月見にぴったりだ。
秋分【しゅうぶん】
春分と同じく昼と夜の長さがほぼ同じに。先祖供養の日とされる秋のお彼岸もこの時期。
● 第四十六候 雷乃収声【かみなりすなわちこえをおさむ】
[九月二十二日~二十七日頃]
夏の間はよく鳴っていた雷が収まってくる頃のこと。秋分以降は日ごとに日照時間が短くなり、秋の夜長となる。秋の味覚の王様といえばマツタケ。芳醇な香りが食欲をそそり、土瓶蒸しやマツタケご飯は秋のごちそうだ。食用としての歴史は古く『徒然草』ではコイ、キジとともに珍味のひとつとして紹介されている。
● 第四十七候 蟄虫培戸【むしかくれてとをふさぐ】
[九月二十八日~十月二日頃]
春先の候「蟄虫啓戸」の逆で、寒い冬を前に虫たちが土の中に潜って巣ごもりを始める頃のこと。温かい土中でじっと春を待つ虫が再び姿を見せるのは約半年後の啓蟄の頃となる。
●第四十八候 水始涸【みずはじめてかる】
[十月三日~七日頃]
「涸れる」は「干上がる」ではなく、田に張られていた水を抜くという意味。つまり田んぼの水を落として稲穂の収穫を始める頃のこと。稲刈りの時期の到来を告げる候だ。
寒露【かんろ】
秋本番を迎えて野の草花に冷たい露が結ぶ頃。「天高く馬肥ゆる秋」、秋晴れの爽やかな日が続く。
● 第四十九候 鴻雁来【こうがんきたる】
[十月八日~十二日頃]
暖かい季節をシベリアの方で過ごした冬鳥の雁が、ツバメなどの夏鳥と入れ違いで日本に戻ってくる頃のこと。毎年初めて戻って来る雁は「初雁」と呼ばれる。青魚の王様とも言われるサバ。国産の真サバは晩秋から冬がもっとも脂が乗っておいしい旬で、ナスと同様に「秋サバは嫁に食わすな」といわれることもある。
●第五十候 菊花開【きくのはなひらく】
[十月十三日~十七日頃]
日本の秋を代表する花、キクが開く頃のこと。キクは生花として観賞されるほか、味と香りがよいために食用栽培もされ、おひたしや酢の物などの食材としても用いられている。
●第五十一候 蟋蟀在戸【きりぎりすとにあり】
[十月十八日~二十二日頃]
キリギリスが鳴き始め、秋虫の大合唱が始まる頃のこと。ただこの候の「蟋蟀」は、「ギーッチョン」と鳴くキリギリスではなく、「リーリー」と鳴くコオロギだという説もある。
霜降【そうこう】
朝晩の冷え込みが厳しくなり、朝露が霜になって降り始める頃。山々の紅葉が美しい時期。
● 第五十二候 霜始降【しもはじめてふる】
[十月二十三日~二十七日頃]
初めて霜が降りる頃のこと。霜が「降りる」というが、実際には霜は土の表面温度が下がって空気中の水蒸気が氷の結晶となったもの。朝の気温が三度になると降りるといわれる。
●第五十三候 霎時施【こさめときどきふる】
[十月二十八日~十一月一日頃]
通り雨(にわか雨)が頻繁に降り出す頃のこと。秋から冬にかけてパラパラと降る通り雨が「時雨」で、俳句では冬の季語とされている。その秋最初の時雨を初時雨と呼ぶ。
●第五十四候 楓蔦黄【もみじつたきばむ】
[十一月二日~七日頃]
モミジやツタの葉が赤く色づく頃のことで、木々の紅葉が本番となる時期。秋の山が紅葉で彩られるさまを「山粧う」という。その山の秋の味覚といえばクリやカキ。味もさることながら、クリは食物繊維やミネラル、ポリフェノール(渋皮に)を多く含み、カキは風邪予防や二日酔い防止にいいなど、栄養価も高い。
※本特集の七十二候は、原則として『略本暦』の漢字表記を基にしながら、旧字体は新字体に置き替え、読み方は現代仮名遣いで表記しています。
2014年1月発刊『BOSCO 5号』掲載 特集
取材・文/柳沢敬法、イラスト/南景太