心に咲く花 104回 胡麻の花

ひとり老ゆる叔母を思へば
ひそやかに
胡麻の花咲く家のあたり見ゆ ― 山本友一

【現代訳】
一人暮らしの叔母のことを思いつつ、ひそやかに胡麻の花が咲いている家のあたりを見ている。

心に咲く花 104回 胡麻の花


斎藤茂吉(さいとうもきち)は、「山のべにうすくれなゐの胡麻の花過ぎゆきしかば沁むる日のいろ」と詠み、俳人の高柳良一は、「湧く雲も胡麻の花いろ奥秩父」と詠むなど、近現代の詩歌に多く詠まれている胡麻の花。
宮柊二(みやしゅうじ)が、「わたくしに得しよろこびと胡麻の実の黒く熟れしを妻は見せに来(く)」と詠むなど、胡麻の実を詠んだ歌も多くあります。

紀元前数千年前の古代インドや古代エジプトでも胡麻はすでに栽培されていました。アフリカのスーダンあたりが胡麻の原産地だと語られ、日本でも縄文時代の遺跡から胡麻が出土しています。

古来、多くの人々に重宝され、健康を支えてきた胡麻。胡麻のふりかけや胡麻油を1年に365回以上いただく私は、胡麻とともに歩んでいると言っても過言ではありません。
ミネラルが多く含まれ、貧血の予防にもいいと語られる胡麻。セサミンなどの抗酸化作用を持つ成分も含まれ、細胞の老化やガン化を抑制する作用があると注目されています。種子に含まれるリノール酸は、動脈硬化の予防にも注目されるなど、あの小さな種子のもたらす恩恵はどれほどのものがあるのでしょうか。

生薬として、胡麻は昔から世界じゅうの人々の暮らしを支えています。
そんな胡麻の花は、わずか1日ほどで萎(しぼ)んでしまいます。約1メートルの高さの一年草の胡麻。長さ2〜3センチメートル程度の花は白、ピンク、淡紫色などの色彩が知られています。

掲出歌の作者は、一人暮らしで年を重ねる叔母を思い、こんな作品を詠みました。1日で花を終える胡麻の花がひそやかに暮らす年老いた叔母を思い起こさせたのでしょう。小さな咲く花ひとつひとつが叔母との思い出に似たものだったのかもしれません。

花は終わっても、豊かで貴いものを私たちにもたらしてくれる胡麻。時代も文明も超えて愛された胡麻をあらためて思う秋です。胡麻団子、胡麻豆腐、胡麻和えなど、人々の暮らしにも浸透する胡麻。秋の夜長の月を仰ぎつつ、家族や親族と味わいたい植物です。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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