
パレスチナ
あまたの町は破壊され
ブーゲンビリアが燃えるがに咲く ― 木本あきら
【現代訳】
パレスチナでは空爆によって、たくさんの町が破壊されている。そんな中、ブーゲンビリアが燃えるように咲いている。
心に咲く花 2025年90回 ブーゲンビリア
掲出歌を詠んだ木本あきらさんは、昭和17年、中国の北京に生まれ、北海道で育ちました。陸上自衛隊勤務を6年おこない、アメリカミシガン州マキノウカレッジでMRA(道徳再武装)の研修を受け、以後、プラントエンジニアとして25年間、トリニダード・トバゴ、リビア、カタール、エジプト、アルジェリア、インドネシア等に駐在したことのある歌人です。この時期、30年にわたって、予備自衛官として、日本で行われる年1回の訓練にも参加した元予備自衛官陸曹長です。
そんな作者が、パレスチナの破壊されていく町を詠んだ作品です。ガザ地区など、幾つもの町が破壊される中、燃えるように咲くブーゲンビリア。
現地の人々は鮮やかな花を愛でる余裕もなく、逃げ惑う日々です。元予備自衛官陸曹長の作者には、ブーゲンビリアが愚かな人間たちの行為を嘆き、怒っているように感じられたのではないでしょうか。
51歳で急逝した海上保安官の本川克幸さんの遺歌集『羅針盤』にも次のようなブーゲンビリアの短歌があります。
鉢の上にブーゲンビリアの苞落ちぬ
思慕燃え残るごときむらさき
落ちたあとにも、「思慕」がまだ燃え残るようだと表現した作者。
夏の到来を物語るブーゲンビリアは、世界じゅうで愛され、栽培されています。
本来なら、色彩豊かですばらしい、宇宙のたからもののような地球は色とりどりの花を堪能できる、【永遠のスペシャルガーデン】だったのかもしれません。そんな地球の体である大地を壊し、人々の暮らしのみならず、動植物の命さえも奪い取る戦争の虚(むな)しさ。
「魂の花」と称されるブーゲンビリアがもし人間に何かを語るとしたら、今、どんなことを伝えたいでしょうか。
丈夫で長期間開花することから、熱帯各地で親しまれるブーゲンビリア。その深紅色が、この先も、決して地球各地で悲しみの色とならないことを願うばかりです。
田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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