家ごとに
リラの花咲き
札幌の人は楽しく生きてあるらし ― 吉井勇
【現代訳】
家々ごとにリラの花が咲いている札幌。耐寒性に優れ、花期が長いリラ。
そんな花を庭に咲かせる札幌の人たちが楽しく生きているように旅人の私には感じられる。
心に咲く花 2026年96回 リラ(ライラック)
「ライラック」とも称される「リラ」は北海道から東北などの寒冷地で庭木や街路樹として利用されています。明治時代に海外から渡ってきたとても美しい落葉樹のリラ。涼しい気候の北海道では、公園にもよく活用されています。
深緋(こきひ・こきあけ)色、紺碧(こんぺき)、藤色、胡粉(ごふん)色、薄桜(うすざくら)色など、さまざまな色彩の種類があるリラは、春に華やかな花を咲かせる花木です。円錐状に小花が集まって咲く、円錐花序(えんすいかじょ)とよばれる咲きかたをするリラは若い樹でも豊富な花が魅力です。
フランスでは白いライラックは青春のシンボルとされています。葉もハート形なので、そこから友情やほのかな恋を想起させてきました。リラの花言葉は、「思い出」「友情」「青春の喜び」「無邪気」「恋の芽生え」「初恋」といったものが知られています。
掲出歌の作者 吉井勇(よしいいさむ)は、“いのち短し、戀(こひ)せよ、少女(をとめ)”の歌詞で名高い『ゴンドラの唄』の作詞者です。1886年(明治19年)に東京で生まれ、歌人として活躍した作者は宮中歌会始の選者も務め、1960年(昭和35年)に74歳でこの世を去りました。
歌人の他、小説や戯曲も書いた吉井勇は森鴎外(もりおうがい)、北原白秋(きたはらはくしゅう)、石川啄木(いしかわたくぼく)、竹久夢二(たけひさゆめじ)ら、同時代の多くの表現者たちと交流をもちました。
そんな吉井勇は昭和30年に札幌を訪れ、旅の記念として、掲出歌を含めた「北遊小吟」5首を残しました。この数年後、リラは札幌市の市花になっています。この歌は大通公園内に歌碑がつくられ、当時の札幌市長が揮毫(きごう)しました。
それから、平成・令和と時代が変わっても、札幌の人たちがリラを大事に思う気持ちは変わりません。人気ミュージシャンの曲のタイトルにも使われました。
地域の人たちに根強く愛される花が、これからも多くの人たちを和ませ、愉しませる存在であることを願いつつ、香りも豊かなこの花の咲く日を心待ちにしたいと思います。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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