心に咲く花 45回 茄子(なす)

つつましい 幸福という 花ことば
ナスの花愛(め)で ふたりの暮らし  ― 山田道子

【現代訳】
「つつましい幸福」という花言葉がある茄子。煮てもよし、焼いてもよしの茄子を家庭菜園で育てている。星型の可憐な花を二人で愛でるつつましくも、とても幸せな日々よ。

心に咲く花 2021年45回 茄子(なす)


秋茄子のおいしい季節となりました。夏野菜のイメージもある茄子ですが、花は四月から十月くらいまで、長く楽しむことができます。世界じゅうで栽培され、地球各地に1,000種類もの茄子の品種があるのだそうです。

静岡では徳川家康公が愛でた「折戸(おりど)茄子」「有度(うど)茄子」が知られます。「折戸茄子」は縁起の良い初夢の「一富士、二鷹、三茄子」の茄子の由来とされています。
他にも熊本の大長茄子や京料理の賀茂(かも)茄子、東北の民田(みんでん)小茄子、大阪泉州の水茄子、長野の小布施(おぶせ)丸茄子、新潟の十全(じゅうぜん)茄子など、個性豊かな茄子が全国各地で親しまれています。

実をつけつつ、次々と花を咲かせる淡紫色の星型の花は、見る人を幸せな気持ちにしてくれます。大地に咲く星座のように、心を潤す茄子の花々。

早稲田大学で教鞭をとった歌人で国文学者の窪田章一郎(くぼたしょういちろう)は、「葉も花も 実も紫の 茄子ばたけ つやつやしもよ 朝露帯びて」という歌を詠みました。
若山牧水(わかやまぼくすい)の妻、喜志子(きしこ)にも「わが植ゑし 茄子は光沢ある 紫に のびて稚(いとけな)き 実は地につけり」という歌があります。

日本には奈良時代の文献に茄子が食べられていたことが記されています。焼いてよし、煮てよし、天ぷらにも漬物にも田楽にもなる茄子はどれほど多くの人々に愛されているでしょう。
「どれもこれもうれし小茄子大茄子」と詠んだのは正岡子規(まさおかしき)です。
「もいでもたべても茄子がトマトがなんぼでも」と詠んだのは種田山頭火(たねださんとうか)です。微笑ましく、あの愛くるしさのある茄子の風貌が歴史に名を残す文学者たちにも楽しい句を詠ませているのでした。

お盆の時期には茄子の馬に乗って祖先の霊が現れ、また茄子の馬に乗って戻るという言い伝えもあり、「茄子の馬」は俳句では秋の季語です。
お盆で御先祖様が活用するほど、人々の暮らしに親しまれた茄子。静岡県から仰ぐと、澄んだ青空によく映えた富士が日本で最も大きな秋茄子にも見えて参ります。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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