一生動ける・歩ける体を作る 自宅筋トレ講座 Part 4

指導=
森谷敏夫(京都大学名誉教授/京都産業大学教授/中京大学客員教授)
吉田直人(NSCAジャパンHPCヘッドコーチ・ストレングス&コンディショニングコーチ)

筋トレが「脳トレ」でもある理由

老いは誰にでも訪れます。それは仕方のないことです。けれど、どんな人でも「最後まで自分のちからで日常生活を送りたい」「長い期間介護を受けて寝たきりの生活はしたくない」「寝たきりの状態で生きていくのはいやだ」と思うはずです。

要介護状態になる理由は病気だけはありません。一番よく聞くのが「転んで骨折し、そのまま寝たきりになってしまった」というケースです。

転倒による骨折の原因は、加齢によるさまざまな機能の衰えが複合的に重なっています。まず筋肉の衰えはもちろんですが、それだけではなく、反射神経、バランス力の衰え、骨密度の低下などです。いくら筋肉は多くても、視覚や聴覚、三半規管、そしてそれらのコーディネートする脳の働きが衰えていると、転倒のリスクはどんどん高まります。

では筋トレをしても転倒防止につながらないの? と感じるかもしれませんが、ところがそうではないのです。
筋トレというのは筋肉だけを使って行うものではないからです。
筋トレを行うと脳と筋肉をつなぐ神経が発達し、神経の働きそのものがよくなることがわかっています。つまり筋肉を増やしながら、脳を鍛えることにもつながっていきます。

つまり、筋トレは脳トレでもある、ということです。

転倒防止だけではありません。頑張って筋トレを行っていると、その刺激は筋肉と同時に脳に伝わります。筋トレを頑張れるのは脳ががんばっているからなのです。
記憶力を司る海馬、大脳皮質、大脳基底核を活性化させるBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質も分泌されますし、同時にやる気を出してくれるドーパミンというホルモンも分泌されます。
その結果、認知症のリスクは低くなっていきます。
こうした効果は「ぼんやりゆっくり歩いているだけ」では得られない大きなものなのです。
筋トレは「筋肉」だけのためではないことを、ぜひ知ってください!

もちろん筋肉が大きくなればさらにいいこともあります。

筋トレで太らない体と、明るい心を手に入れる

① 筋肉が増えるとエネルギー代謝が上がり、太りにくく痩せやすい体になる
② とにかく「見た目」がよくなり、気持ちも明るくなる
③ 脳への刺激で「やる気」や「意欲」がわき、生活そのものが積極的になる

外見も、内臓も、さらには精神的な状態までも改善できるのが「筋トレ」ということです。
ご自身の体力に応じ、できるところからはじめてみてください。
どんなに筋力がない人でも、少しずつ続ければ必ずあなたの筋肉は答えてくれます。

筋肉痛は、筋トレで傷んだ筋肉が修復されていくときの痛みです。痛みがあるときは筋トレを休み、痛みのない部分だけの軽いストレッチを行うといいでしょう。
筋トレの種目は、全部まんべんなく行えばそれだけの効果はありますが、平日はやりやすいものを1-2種類だけ選び、週に1度だけは全部やってみる、という形でも十分です。

前回は「腕立て伏せ」と「スクワット」を紹介しました。このふたつさえやっていれば、だいたい全身の筋肉は鍛えられるのですが、今回は、お腹や腕など、部分的にも効果があるものをいくつか紹介します。

自宅筋トレA(腹筋)

10~15回を2~3セット(回数は筋力に応じて増やす)

腹筋にしっかり負荷がかけられるので、ぜひおすすめしたいエクササイズです。腰を痛めるリスクも少ないので中高年の方にも安心して行っていただけるでしょう。体を上げるときに息をゆっくりと吐き、下ろすときにはゆっくりと吸ってください。呼吸も、動きも「ゆっくり」が最大の効果を上げる最大のポイントです!

①仰向けに寝て膝を立て、手を太ももに置く。

②手をすべらせて膝に触れるところまで上体を起こし、ゆっくりと戻る。

自宅筋トレB(上腕三頭筋)

10~12回を2~3セット(回数は筋力に応じて増やす)

二の腕の「後ろ側」の筋肉をしっかり鍛えてくれます。女性の場合はとくにこの筋肉が衰えると「振り袖肉」と言われるように、肉が垂れ下がりがちになるので、筋トレで引き締めましょう。普段なかなか日常的には使わない筋肉なので、がんばりましょう!

①膝を曲げて腰を下ろし、上体を後ろに倒して両腕で支える。

②手肘をゆっりと曲げて上体を倒していき、またゆっくりと戻る。
※首をすくめないように注意。

自宅筋トレC(大殿筋、腰部)

10~15回を2~3セット(回数は筋力に応じて増やす)

お尻の筋肉を鍛えます。引き締まったしっかり上に上がったお尻を作るだけではなく、体幹全体を強化してくれるおすすめ筋トレです。

①仰向けに寝て膝を曲げ、腰幅に開く。つま先は上げておく。

②つま先を上げてかかとで床を押すようにして、体全体を床から持ち上げ、ゆっくりともとに戻る。
※腰をそらさないように注意。
※かかとで体を支えると、おしりの筋肉にしっかり力が伝わる。

自宅筋トレD(腹直筋、腹斜筋)

左右交互に計5~10回を2~3セット(回数は筋力に応じて増やす)

お腹の両脇の筋肉をしっかり鍛えられる筋トレです。スタイルアップにも効果的!
膝を軽く曲げて行ってください。

①仰向けになり両腕を左右に広げて体を支え、両足をまっすぐ上に上げる。膝は軽く曲げてもよい。

②両肩を床から離さないように注意して、両足をそろえたまま片側に倒す。

③中央にもどして反対側に倒す。

 

<Part 3.>いよいよ筋トレを始めましょう

<Part 2.>「筋トレ前」と「筋トレ後」のストレッチを覚えよう

<Part 1.>筋トレを始める前に・・・


森谷 敏夫(もりたに・としお)
1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、京都大学教養部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て2016年から京都大学名誉教授、京都産業大学・中京大学客員教授。専門は応用生理学とスポーツ医学。著書に『京大の筋肉』(ディジタルアーカイブス)、『やせられないのは自律神経が原因だった』(青春出版社)、『定年筋トレ』(ワニブックスPLUS新書)ほか。

吉田 直人(よしだ・なおと)
1976年、千葉県出身。千葉県私立成田高校、中央大学経済学部卒業。一度は金融業に就職するも、トレーナーの道を選ぶ。ウイダートレーニングラボでヘッドS&Cコーチ、ラグビートップリーグのホンダヒートでヘッドS&Cコーチとして5年間従事し、2017年4月よりNSCAジャパンヒューマンパフォーマンスセンターヘッドS&Cコーチを務める。資格:CSCS(認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)、NSCA-CPT(NSCA認定パーソナルトレーナー)著書に『定年筋トレ』(ワニブックスPLUS新書)ほか