道のべに どくだみの花 かすかにて
咲きあることを われは忘れず ― 斎藤茂吉
【現代訳】
道端に小さなどくだみの花が咲いています。
どんなに小さくても、微(かす)かな存在ではあっても、この大地に咲いてくれているどくだみのことを私は忘れません。
心に咲く花 第5回 どくだみ
今年もどくだみの純白色が大地を彩る季節がやってきました。本州から沖縄、中国やヒマラヤにも群生しているどくだみ。
薬効に富み、「十薬」の別名も持つどくだみは、根はきんぴらや煮物にすることができ、葉は和え物や天ぷら、油いためでもいただけます。
生葉をあぶったものを腫れ物に貼ること、葉の汁を虫刺されに塗ることは古来、この国でおこなわれてきました。天日干しした若葉や茎を煎じて飲めば、利尿作用、高血圧予防、カイチュウ駆除など、いくつもの薬効があるそうです。まさに「十薬」の名に相応しい野草です。
星野富弘さんの詩画集『風の旅』(立風書房)には、次のような「どくだみ」という詩があります。
「おまえを大切に摘んで行くひとがいた/臭いといわれ 嫌われもののおまえだったけれど/道の隅で歩く人の足許を見上げひっそりと生きていた/いつかおまえを必要とする人が現れるのを待っていたかのように/おまえの花/白い十字架に似ていた」。
大地にとても近い場所で、人知れず清廉な花を咲かせるどくだみ。
「咲きあることをわれは忘れず」と詠んだ茂吉のまなざしの優しさを思います。茂吉は歌集『赤光』の連作「死にたまふ母」の中でも、どくだみを詠んでいます。
「どくだみも薊(あざみ)の花も焼けゐたり人葬所(ひとはふりど)の天(あめ)明けぬれば」という一首。
全国各地で見ることができるどくだみ。あの白い凛とした花と出会うと、ふるさとを思い出すという方もいるかもしれません。
野に咲く小さな花を思い、対話をしながら、その生命、さらには様々な生命を生かす天地(あめつち)さえも讃えてきた日本人の感性。
風薫る季節には自ずと芽生えるものの豊かさ、尊さ、逞しさに思いを馳せたく存じます。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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