心に咲く花 15回 白木蓮

白木蓮の 卵いよいよ 膨らみて
大地の祭り 始まらんとす― 松村由利子

【現代訳】
まるで卵に喩えたくなるような白さまぶしい白木蓮の花が咲くと、春が到来し、大地のお祭りが始まろうとしている。

心に咲く花 2019年15回 白木蓮(ハクモクレン)


春はさまざまな色の花々が大地を彩ります。
朝陽を浴びて耀く花、都心のコンクリートの割れ目からも花を咲かせる小さな野草、夕明かりの中でしみじみと味わいたくなる淡い色の花。
世界的に活躍されているある方が「花は親神様の傑作だなあ」と語られていたことを思い出します。

それぞれにすばらしさがある花々の中で、最も好きな花は、と問われたら、私はすぐに「白木蓮」の名を挙げます。
都心のある場所にそっと咲いている白木蓮と出逢ったのは今から十数年前でした。
そのまばゆいばかりの花は今にも羽ばたきそうな純白の羽毛を称えた春の野鳥のように思えて、あまりの神々しさに心の中で手を合わせたくなったことがありました。世界にこんなに美しい花があるのか、と。

その後、マンション建設でこの白木蓮が小さく伐採されてしまった際にはとてもショックでした。けれども、再び花を咲かせる日を信じ、四季折々に語りかけながら、毎年の花の時期を待ちわびていました。そんな白木蓮がここ数年、再び花を咲かせてくれています。

掲出歌の作者が詠むように、白木蓮の花が膨らむと、まるで大地が祝祭をしているようにうららかに思えます。人間の眼では見ることができない、妖精たちが鼓笛隊の姿で春のフラワーマーチを奏でているのかもしれません。

「晴れよりも 小雨降る日の 白もくれん 近づきやすく 近づき眺む」という歌を詠んだのは現代歌人の伊藤一彦さんでした。
神々しさも、時には近づきやすい親しさも感じさせてくれる花。
雨の木蓮といえば、あの夏目漱石も、「木蓮に 夢の様なる 小雨哉」という俳句を残しています。

木蓮は実は一億年以上前の恐竜の時代から生息している植物だそうです。
遥かな歳月、この星を飾り続けている木蓮の尊さをあらためて思う花見月です。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

★こちらの記事もご覧ください★
【BOSCOトーク】対談 赤塚耕一×田中章義さん