心に咲く花 6回 つゆ草

道ばたの 空地に群るる つゆ草の
澄みたる藍は 草にまぎれず ― 芹澤たみ

【現代訳】
道端の空地に藍色のつゆ草が群れるように咲いています。
澄みわたった美しいつゆ草の藍色。小さな花ではあっても決して草に紛れることなく、今日もこの大地を彩っています。

心に咲く花 第6回 つゆ草


道端の空地に藍色のつゆ草が群れるように咲いています。
澄みわたった美しいつゆ草の藍色。小さな花ではあっても決して草に紛れることなく、今日もこの大地を彩っています。

六月になると、公園から自宅までの道に小さなつゆ草が咲き始めます。紫陽花のような大輪の花ではないため、元気な野草の葉に隠れてしまうこともありますが、優しい藍色には確かな存在感があります。

全国各地で見ることができるつゆ草。
日本では古来親しまれ、『万葉集』には九首のつゆ草の歌が存在しています。
「月草」とも「帽子花」とも呼ばれていますが、私は「ほたる草」という呼び名がとても好きです。幻想的な蛍の光にも喩えたくなる雰囲気。誰かが特別に植えたわけではないのに、梅雨の時期から秋が始まる頃まで、つゆ草は全国各地の大地をくまなく飾ってくれています。

時にはお母さんに叱られたこどもを励ますように、ひょっこりと顔を出すつゆ草。
時には遠くまではもう歩くことができなくなったおばあさんの庭の片隅で、童謡を歌うように咲いているつゆ草。
さり気ないのに、見つけるととても幸せな気持ちになるのは、つゆ草がとても優しい“大地の天使”だからなのかもしれません。

「鴨跖草(おうせきそう)」という生薬名もあるつゆ草は、湿疹やあせも、下痢止めや解毒にも薬効があると言われてきました。

「露草や天上の青そのままに」(長嶺勇)、
「ここらでやすまう月草ひらいてゐる」(種田山頭火)、
「蛍草のそのやさしさへ歩みをり」(加藤楸邨)など、
さまざまな俳人もつゆ草を俳句に詠んでいます。

「露草のかそけき花に寄りてゆく心の行方ひとり喜ぶ」と詠んだのは、蛍の短歌でも知られる窪田空穂でした。

掲出歌の作者は富士宮市の方です。実はつゆ草の藍色は、夏の富士山の藍色ともよく似ています。もしかすると、宇宙から見れば、富士山は「世界でいちばん大きなつゆ草」に見えるのかもしれません。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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