たましひよ萎えしといふな
真夏日の
ひかりのなかに柘榴は咲けり ― 若山 牧水(わかやまぼくすい)
【現代訳】
魂が衰え萎えてしまったと言うなかれ。真夏日の灼熱のひかりのなかで、柘榴は咲いている。
心に咲く花 101回 柘榴(ざくろ)
数千年前のイラン付近などが原産地と語られる柘榴は、中東や西南アジアでは古代から栽培されてきました。エジプトやギリシャ、ローマの神話などにも登場します。一方、中国の紀元前の書物にも記されています。
仏教では、吉祥天のお母様である鬼子母神が持つ果実を意味する「吉祥果」と呼ばれてきました。聖書では、「復活と永遠の生命の象徴」とされ、ボッティチェッリの「ザクロと聖母」など、絵画にも登場しています。
こうした現代につながる、世界じゅうのさまざまな文化で愛され、飲食されてきた柘榴。日本では平安時代にすでに伝来していたと語り継がれます。
ビタミンをはじめ、カリウム・マグネシウム・カルシウム・鉄分・亜鉛などのミネラルが豊富な柘榴は、樹皮や根皮も古来、生薬として用いられてきました。抗酸化作用があるポリフェノールも含有し、生活習慣病の予防につながる食材として、各国の人々を魅了しています。
個性的な実はもちろん、緋色の花にも優雅な美しさがあります。赤く輝く宝石といわれ、女王クレオパトラをはじめ、時代を超えた人たちに花も実も愛される柘榴。豊穣や繁栄の象徴として、名立たる庭園にも植えられてきました。
歌人では若山牧水が多くの柘榴の歌を詠んでいます。掲出歌の他にも、「梅雨晴のわづかのひまに出でてみる庭の柘榴の花はまさかり」「見てあれば見てあるほどに柘榴花くれなゐ燃えて枝にそよがず」などの作品を残しました。
堂々とした存在感がありながら、どこか母性的な優しさも感じさせる柘榴。
イランでは、毎年ザクロ祭りが開催されています。戦禍のやまない昨今の国際情勢でも、どうか、安心して、今年も現地の人々が柘榴の祝祭を実施できますように。世界じゅうの平和を祈念しつつ、今回は柘榴の花の歌を紹介しました。
田中章義(たなか あきよし)さん
歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。
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