心に咲く花 52回 チューリップ

チューリップ 心の中で咲くときは
初恋の子の顔よみがえる  ― 守屋聡史

【現代訳】
「♪咲いた咲いたチューリップの花が……」の童謡もあるチューリップ。そんなチューリップが心の中で咲いたとき、ふと思い出すのは初恋のあの子の顔だった。

心に咲く花 2022年52回 チューリップ


この原稿を書く数日前、出演する番組のロケで新潟市と佐渡市にいました。満開の桜に感動しつつ、一方で大地に植えられたチューリップにもとても心惹かれました。
チューリップは新潟が毎年、全国トップクラスの生産地なのだそうです。新潟駅近くでは園児たちがチューリップの苗を植え、佐渡では千年以上の歴史をもつ古刹(こさつ)にも色とりどりのチューリップの花が咲いていました。

春爛漫の大地を明るく彩るチューリップ。富山県砺波市のチューリップ園とともに、新潟市寺尾中央公園のチューリップは名高く、4月から5月まで楽しむことができます。広い皮針形の葉を2、3枚出し、花茎の先に美しい大輪の花をつける花壇の人気者です。

トルコのアナトリア地方が原産地といわれるチューリップは、有名産地のオランダはもちろん、アフガニスタンやイラン、ハンガリーの国花にもなっています。世界的に愛され、登録品種だけでも世界各地に5,000種類以上もあるそうです。

短歌の世界では石川啄木(いしかわたくぼく)や宮沢賢治(みやざわけんじ)らがチューリップの作品を詠み、俳句では稲畑汀子(いなはたていこ)が「子の夢のふた葉となりぬチューリップ」という句を残しています。

童謡「チューリップ」が心に刻まれたためか、掲出歌のように幼少期の恋心を思い出す人もいるかもしれません。大地に咲くチューリップもすばらしいですが、春は人々の心にもそっと咲くチューリップがあるのではないでしょうか。
一つの個体の中、もしくは一つの花の中におしべとめしべが存在することも多い「両性花」の代表格であるチューリップ。花言葉は「思いやり」なのだそうです。

今年は一九三二(昭和七)年に童謡「チューリップ」が発表されて九十年の節目の年。全国各地にあるチューリップの産地に思いを馳せつつ、のどかでうららかな季節が世界中にやって来ることを願うばかりです。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

★こちらの記事もご覧ください★
【BOSCOトーク】対談 赤塚耕一×田中章義さん