心に咲く花 62回 土佐水木(とさみずき)

とさみづき芽はいち早し春浅き
屋後(おくご)の雪の片傍(かたそば)に萌ゆ  ― 木俣修(きまたおさむ)

【現代訳】
土佐水木はまだ春浅い時期からいち早く芽吹き、家の裏の雪降る片はしにもすでに萌え始めている。

心に咲く花 2023年62回 土佐水木(とさみずき)


四国の蛇紋岩(じゃもんがん)の山地の他、高野山でも自生すると言われる土佐水木。3月頃から、葉よりも先に淡黄色の花が穂状に垂れさがって咲く野趣豊かな花です。
『草木花の歳時記 四季花ごよみ』によれば、トサミズキ属はヒマラヤと東アジア特産の珍しいものなのだそうです。約20種あるうち、4種が日本にも自生しているとのことでした。

葉が出る前に花が咲く土佐水木は早春の青空によく映え、新たな季節の始まりを感じさせてくれます。
花の蜜も多く、香りもほのかに漂うことから、その蜜を味わいにメジロやヤマガラなどの小さな野鳥もやって来ます。土佐水木が咲き、メジロが鳴きはじめると、そろそろ春が来たなあと実感する人も多いのではないでしょうか。

作者の木俣修は1906年(明治39年)生まれの歌人です。北原白秋(きたはらはくしゅう)にあこがれた木俣修は、歌人として、国文学者として活躍し、1951年には昭和女子大学教授に就任しました。以後、歌会始の選者も務めた木俣修は、宮内庁御用掛として、昭和天皇の御製(ぎょせい・和歌)の指南役も務めています。

寒冷地をのぞけば、多少日当たりが悪くても元気に育つ土佐水木は、江戸時代から観賞用に栽培されてきました。その強さ、育てやすさゆえに庭木や公園の樹木としても重宝されています。

花の少ない時期に咲くため、生け花の花材としても尊ばれる土佐水木。
俳句の季語は「春」で、現代俳人にも「土佐水木花吊るを待つ日なりけり」(阿部ひろし)、「春を告ぐ鐘垂らすかに土佐みづき」(久保田雪枝)などの作品が見られます。

花言葉は「清楚」「優雅」。
早春の風にたくさんの花穂が揺れる姿は愛らしく、微笑ましく、あたり一面を歓喜に包んでくれる樹木です。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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