心に咲く花 95回 アベリア

こがらしの
吹きとほりゆく道の辺(べ)に
アベリアの花わづかのこりて ― 花山多佳子『春疾風』より

【現代訳】
木枯らしが吹き通っていく道のあたりに、小さなアベリアの花がわずかに咲き残っている。
寒さが増す中、吹き荒(すさ)ぶ風に飛ばされてしまいそうなのに、わずかに残ってくれている愛らしいアベリアの花よ。

心に咲く花 2025年95回 アベリア


野生種は日本やヒマラヤなどに15種類が分布すると言われるアベリア。日本にはそのうち4種類が自生しているそうです。
プロペラのように広がる5枚の萼(がく)が花後も残り、羽根のように見えることから、「衝羽根空木(ツクバネウツギ)」とも称されます。
開花時期が長く、「四季咲き」にも数えられるアベリア。四季咲きとは春から咲き始め、真夏と真冬以外はほとんど花をつけているような咲き方のことを指し示します。桜が散った頃から、冬のコートを羽織る頃まで咲くため、国内では、公園や道路脇に多数植栽されてきました。

この歌の作者・花山多佳子(はなやまたかこ)さんは1948年生まれの女流歌人です。愛知大学学長を務めた祖父をもち、父の玉城徹(たまきとおる)さんも名高い歌人です。そんな花山さんは、何冊もの歌集でアベリアを詠んできました。

「歩道橋の傍えのアベリアふさふさと刈り残されて花の明るむ」(「草舟」)
「ポリ袋双手に下げて陶酔す低きアベリアの冬の葉むらに」(「草舟」)
「冬の日のあかがねいろのアベリアに鳥の柔毛が吹かれていたる」(「楕円の実」)。

歩道橋そばの「刈り残された」アベリアでも小さな花が明るく咲いていたと感じられた作者。ゴミ袋でしょうか、「ポリ袋」を両手に下げていたときでさえ、冬の葉むらに見つけたアベリアの可憐な白い花に思わず「陶酔」してしまったと詠んでいます。

アベリアは病害虫の被害も少なく、小さな花のイメージと違って、とても逞しく育つ植物です。そのため、道路脇にも用いられるのです。白色の他、ピンクの花もあるアベリア。葉色も豊富なことから、今日も国内外の人々を魅了し続けています。
控えめに咲く姿から、「謙遜」「謙虚」などの花言葉も持つアベリア。聖母アベ・マリアの名にも似た花は今日も世界じゅうで可憐に咲き、大地を彩ってくれているのでしょう。


田中章義(たなか あきよし)さん

歌人・作家。静岡市生まれ。大学在学中に「キャラメル」で第36回角川短歌賞を受賞。2001年、国連WAFUNIF親善大使に就任。國學院大學「和歌講座」講師、ふじのくに地球環境史ミュージアム客員教授も務める。『世界で1000年生きている言葉』(PHP文庫)の他、歌集『天地(あめつち)のたから』(角川学芸出版)、『野口英世の母シカ』(白水社)など著書多数。

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